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すると政宗様は何か言いたそうに眉間に皺を寄せた。

何だ…?

「ah〜、俺は別にアンタの主ってわけじゃねぇんだ。ンなに畏まらなくていいぜ」

「………マジで?」

嬉しさのあまり政宗様にタメ口を聞いてしまった。

政宗様はそれにちょっと驚きながらも、おぅと返してくれた。

「俺ってば公の場以外で堅苦しい事すんの嫌いなんだよね」

気分を害した様子もないしタメ口続行。

口元、というか表情を隠すために覆っていた布も外した。

「アンタ随分変わった忍だな。忍らしくねぇし、それじゃアンタの仕えてる当主もさぞ変わってるんだろうな」

呆れたように言う政宗様に俺はどっちもどっちだと思った。

未来から来たと言う身元不明の俺を自分の城に迎えている時点で政也様と同類。

政也様もついこの間おもしれぇ奴を見つけたと言って人間を拾ってきた。

身元を調べるのに俺がどれだけ苦労したことか。

「ところで俺は何をすればいいわけ?」

此処にはこの時代の黒脛巾組がちゃんといるし俺やることないんじゃね?

そう思って聞けば政宗様は俺の話し相手をしろ、と言った。

話し相手?と最初は首を傾げたがその意味はすぐに分かった。

執務をしながら息抜きに会話をしたいってことか。

筆をさらさらと走らせる政宗様の横で俺は室内を見回す。

「これはまた随分と溜め込んだな」

「やる気がでねぇんだ。仕方ねぇだろ」

そこへ小十郎様がお茶を運んで来た。

「その日の気分で仕事をされていては困ります」

慎、ここにいるなら政宗様がサボらないよう見張っていろ。と俺に言葉を投げて小十郎様は退出していった。

「だってさ政宗様。俺、後で少し城内を見て回りたいからなるべく早く片付けてな」

政宗様が終わるまで俺もこの部屋から出らんなくなっちまったよ。

「ha、遠慮なく物言う忍だな。それならそこのやつ整理しといてくれ」

変わった忍の次は遠慮がないかよ。

ま、遠慮がないってのも言われ慣れてるからいいけどさ。

俺ははいはい、と返事を返してごっちゃになっている書類整理を始めた。

「でもさ、忍に執務の手伝いさせる政宗様も十分変わってると俺は思うわけよ。小十郎様はどう思う?」

あれから何とか執務を終わらせた政宗様は今、湯浴みに行っている。

終わった時には空が茜色に染まっていた、とだけ追記しておこう。

そんなワケで政宗様から解放された俺は城内の見学を終え、夕餉の支度をしている小十郎様の横でその手元を覗き込んでいた。

「で、それをなんで俺に聞く?」

摘まみ食いしようと伸ばした手は叩き落とされた。

「てっ!…政宗様の一番近くにいるのは小十郎様でしょう?だからどう思ってるのかなぁと一忍の好奇心です」

赤くなった手の甲を擦って俺は壁際まで下がる。

あぁ、美味しそうな金平牛蒡が…。

「そんなくだらねぇこと聞いてる暇があるならそこの膳を順に運んで行け」

「はぁい」

小十郎様は俺を見もせず、まったく相手にされなかった。

俺は美味しそうに盛り付けされた膳を言われた通り運ぶことにした。

あれ?俺ってば小十郎様にまで使われてる。

しかもこれまたぜんっぜん忍のする仕事じゃない。

「小十郎様も忍にお膳運びさせるなんて変わってる…」

それを二度繰り返し、お膳を運び終えた時、政宗様と小十郎様が部屋へと入ってきた。

「慎、城内は見れたか?」

政宗様は上座へ座り、俺にも座るよう促す。

「見れたけど…。ここ誰か来るんじゃないのか?」

運んだ膳は全部で三膳。政宗様と小十郎様と後一人。

不思議そうに首を傾げれば小十郎様に呆れたようにため息を吐かれ、言われた。

「それはお前の分だ」

何がおかしいのか政宗様はにやにや笑っている。

「え?」

「要らねぇなら食わなくていい」

その言葉に俺は慌てて席についた。

「いるいる!金平牛蒡は俺の大好物なんだよ!」

まさか忍の俺まで膳を用意してもらえるとは思わなかった。



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